アパート・マンションを建てると相続税評価はどう変わる?貸家建付地の仕組みを解説
2026年8月17日

目次
「相続税対策としてアパートを建てると節税になる」「所有している土地に賃貸マンションを建てたほうがいい」といったお話を聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。同時に、「なぜ建物を建てて人に貸すだけで、節税になるのかがわからない」と疑問に感じる人も多いはずです。
節税対策になる理由は、アパートやマンションを建てて人に貸すことで、その土地が自由に使える状態ではなくなり、「貸家建付地(かしやたてつけち)」という区分として扱われるためです。自分が土地の所有者であっても、他人が住んでいるため自由に売却したり使ったりできなくなる権利の制限が、相続税の評価額に反映されます。
本記事では、貸家建付地の基本的な考え方、国税庁が定めている計算式の意味、アパート・マンションのメリット・デメリットについて解説します。
貸家建付地とは?
土地の上にアパートやマンションなどの賃貸用物件を建てると、相続税を計算する際の土地の分類が変わります。貸家建付地の意味や、なぜ評価額が変わるのかという基本的な考え方から確認していきましょう。
自分の土地に貸家を建てて貸している状態
貸家建付地は、「自分自身が所有している土地の上に、人に貸すための建物(貸家)を建てて、実際に第三者に貸し出している状態の土地」を指します。
相続税の計算において、土地はその利用状況によっていくつかの種類に分類されます。たとえば、建物が何も建っていない更地や、自分が住むための自宅が建っている自用宅地などは、所有者が自分の意思で自由に利用したり処分したりできる自用地(じようち)として分類されます。
一方で、賃貸アパートや賃貸マンション、借家などが建っている土地は貸家建付地に該当します。ご自身で所有している土地であっても、そこに住んでいる入居者がいる場合には、更地や自用宅地とは区別されて相続税が評価される仕組みになっています。
土地を自由に使えない分、評価が調整される考え方
相続税の評価額を決めるとき、「所有者がどれくらい自由にその土地を使えるか」という視点が重要です。基本的には、自由に使える土地ほど評価額が高くなり、使い勝手や処分に制限がある土地ほど評価額が低くなります。
アパートやマンションの住人(借り手)には、日本の法律(借地借家法)によって「借家権」という強い権利が守られています。そのため、土地や建物の所有者である大家さんであっても、「明日すぐに立ち退いてほしい」と請求したり、突然土地を更地にして売却したりすることは法律上できません。
このように、所有者であっても「自分の思い通りに処分できない不自由さ(権利の制限)」が生じるため、国税庁も「自由に使えない分の価値を差し引いて評価しましょう」として、土地の相続税評価額を下げる仕組みを採用しているのです。
借地権割合、借家権割合、賃貸割合の意味
貸家建付地の評価額を計算する際、計算式の中にいくつかの専門用語が登場します。一見すると難しく見えますが、それぞれの数字が意味している内容はシンプルです。
* 借地権割合(しゃくちけんわりあい):土地全体の価値のうち「土地を借りて使う権利」が占める割合のことです。地域ごとに30%〜90%の間で細かく設定されており、一般的に地価が高い都会の繁華街ほど高く、郊外に行くほど低くなる傾向があります。 * 借家権割合(しゃっかけんわりあい):建物を「借りて住む権利」の価値を表す割合です。相続税の計算においては、住んでいる地域に関わらず全国一律で30%と定められています。 * 賃貸割合(ちんたいわりあい):アパートやマンション全体のうち、実際に人が入居して貸し出されている部屋の割合(稼働率)のことです。すべての部屋が埋まっている満室の状態であれば、賃貸割合は100%として計算されます。

評価が下がる仕組み
貸家建付地の概要がつかめたところで、次は実際にどのような計算式で評価額が算出されるのかを見ていきましょう。
国税庁の計算式をやさしく分解
国税庁によると、貸家建付地の評価額は以下の公式を用いて計算することとされています。
貸家建付地の評価額 = 自用地としての評価額 ×(1 - 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合)
ポイントは「(1 - …)」というカッコの中の引き算にあります。ここでの「1」とは、土地を更地(自用地)として自由に使える状態(100%の価値)を表しています。そこから「他人の権利が入っている割合(自由に使えない不自由さ)」を掛け算で算出し、引き算をしています。
たとえば、自用地としての評価額が1億円、借地権割合が60%の地域にあるアパートで、全室満室(賃貸割合100%)の場合を考えてみましょう。差し引く割合は「60%(借地権割合)×30%(借家権割合)×100%(賃貸割合)=18%」となります。これを計算式にあてはめると「1億円×(1-0.18)=8,200万円」となり、更地として評価する場合と比べて評価額が1,800万円分抑えられる計算になります。
満室と空室で考え方が変わる
評価額の計算で重要なのが賃貸割合です。先ほどの計算例では満室(100%)として試算しましたが、もし部屋の半分が空室(賃貸割合50%)だった場合、評価減の効果は大きく減少してしまいます。
先ほどと同じ条件で賃貸割合が50%になると、引き算できる割合は「60%×30%×50%=9%」まで縮小します。その結果、評価額は「1億円 ×(1-0.09)= 9,100万円」となり、評価の減額幅は900万円にとどまります。
空室が存在する場合、税務上「その空室の真下にある土地部分は、大家さんがいつでも自由に使える状態にある」と判定されます。そのため、空室が多ければ多いほど、不自由さを理由とした評価減の恩恵を受けにくくなる点には注意です。
ただし、相続が発生した時点でたまたま空室があった場合、すぐに諦める必要はありません。退去直後で継続的に次の入居者を募集しており、いつでも貸せる状態にあるなど「一時的な空室」と認められる場合には、満室扱いとして計算できる救済措置も用意されています。
評価の形式だけではなく実態が重要
「土地の上にアパートの形をした建物を建てさえすれば評価額が下がる」と安易に考えるのは危険です。税務調査においては、形式的な建物の存在だけでなく「賃貸経営としての実態があるか」がチェックされるからです。
たとえば、親族や知人にタダ同然の賃料で貸しているケース(使用貸借など)や、建築したものの長期間にわたって実際の入居者がおらず誰も住んでいないケースなどです。
このような状態で運用している場合、適正な賃貸借契約に基づいた「事業としての実態がない」とみなされるおそれがあります。その点を税務署から指摘されると、貸家建付地としての評価が認められず、自用地(100%)の評価に戻されてしまうリスクがあることを知っておきましょう。
アパート・マンション活用のメリット
土地にアパートやマンションを建てることには、相続税の評価調整以外にもさまざまなメリットがあります。
家賃収入
賃貸住宅を経営する最大のメリットは、毎月継続的な家賃収入(インカムゲイン)を得られる点です。
得られた家賃収入は、日常の生活費や老後の蓄えとして活用できるだけでなく、将来発生する相続税の納税資金として手元に蓄えておくことも可能です。手元資金を増やしておくことで、相続発生時に残されたご家族が納税に困るリスクを軽減できます。
土地の活用
土地は何も使わずに放置している更地の状態でも、固定資産税や都市計画税が毎年かかり続けます。収入を生み出さないまま維持費だけがかかる「お荷物な資産」になってしまっているケースも少なくありません。
アパートやマンションを建築して有効活用することで、土地を優良な収益資産へと生まれ変わらせることができます。また、土地にかかる毎年の固定資産税や都市計画税に対して「小規模住宅用地の特例」などの軽減措置が適用され、保有期間中のランニングコストを大きく抑える効果も期待できます。
相続時の評価調整
現金として1億円をそのまま所有している場合、相続税の計算上も「1億円」として評価されます。しかし、その1億円を活用して土地を購入したりアパートを建てたりした場合、資産の評価方法が変わります。
前述の通り、土地部分は貸家建付地として更地より低い評価額が適用されます。さらに、建物部分についても実際の建築費や時価ではなく固定資産税評価額を基準とし、そこに貸家としての評価(借家権割合30%控除)を適用するため、大幅に低い評価額となります。
結果として、同じ価値の資産(1億円)を所有していても、現金で保持している場合に比べてアパート・マンションは課税対象となる金額を数千万円単位で圧縮できる可能性があります。
アパート・マンション活用の注意点
アパートやマンションの活用には魅力的なメリットがある一方で、慎重に検討すべきリスクや注意点も存在します。
借入金と金利
アパートやマンションを建築する際、多くの方は金融機関からアパートローンなどの融資を受けて資金を調達します。
相続税の計算上、建築のための借入金(負債)は相続財産から差し引くことができる債務控除の対象となるため、一時的には相続税の負担を軽減する要素として機能します。
しかし、事業の観点で見れば、借入金は将来にわたって返済していくべき負債です。特に変動金利でローンを組んだ場合、将来的な金利上昇によって毎月の返済額が増加するリスクがあります。返済負担が重くなると、賃貸経営全体の資金繰りを悪化させる要因となります。
空室、修繕、管理
税金面でのメリットが得られたとしても、肝心の賃貸経営で空室が続いて家賃収入が得られなければ、ローンの返済や維持費を自分のポケットから持ち出す赤字経営に陥ってしまいます。建築予定地の周辺にある人口動向や競合物件の状況を事前にしっかりと調査することが重要です。
また、建物は時間の経過とともに老朽化します。10年〜15年といった周期で必要となる外壁塗装や屋根の補修、設備交換といった大規模修繕のコストをあらかじめ見込んでおく必要があります。
長期的な修繕計画を立てずに運用を始めると、将来予期せぬ大きな出費が発生し、キャッシュフローが破綻してしまうおそれがあります。
相続人が運営を引き継げるか
賃貸住宅の建築を検討する際は、将来その資産を相続するご家族(お子様など)の意向を確認しておくことも重要です。残された家族に、賃貸経営を引き継ぐ意思や意欲、知識があるかを考慮しなければなりません。
もし相続人が遠方に住んでいたり、不動産管理に全く関心がなかったりする場合、相続後に適切な管理がなされず物件が荒廃してしまうリスクがあります。
さらに、複数の相続人がいる場合、不動産は現金のように簡単に切り分けられないため、遺産分割協議がまとまりにくくなる原因にもなります。意見が対立して「売却も解体もできない」というトラブル(いわゆる争族)につながる事例もあるため、事前に家族間で話し合う必要があります。
まとめ|賃貸住宅は税金だけでなく事業として考える
アパートやマンションを建てると土地の相続税評価額が下がるのは、入居者の権利を守るために「所有者であっても自由に使えない土地」になるからです。国税庁の計算式の意味を紐解くと、評価減の効果を最大限に活かすためには高水準の入居率を保つ満室経営が大切であることがわかります。
ここで強調しておきたいのは、「相続税を減らすこと(節税)」だけを目的にしてアパート・マンション経営を決断するのは非常に危険である点です。評価額を下げることができても、空室だらけでローン返済が滞ってしまえば本末転倒です。
アパートやマンションの運営は、数十年単位で継続していく立派な事業(ビジネス)です。土地の潜在力を見極めるためにも、土地の立地条件、用途地域、ハザードリスク、最寄り駅からの距離、周辺の賃貸需要などを総合的に分析することが求められます。税金対策だけでなく、長期的な収益性や将来の管理体制、そして家族の方針まで含めて総合的に判断しましょう。
まずはトチシルで土地の立地条件、用途地域、ハザードリスク、最寄り駅からの距離などをチェックしてみましょう。

参考公開情報:国税庁 貸家建付地の評価 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hyoka/4614.htm






